冒険から帰り、外出禁止の罰も解けた頃、シェールはミルズ家を訪れていた。

「これ、あげる」

「どうしたの、このお菓子?」

 ミゼットは目の前に差し出されたお菓子をきょとんと見つめた。いつもはこれとまるきり正反対のことをしているのだ。

「この前、二日だけだけど、お菓子屋さんで働いたんだ。それで、親方にもらったお金で買った」

「聞いたわ。大変だったんだって?」

「うん。お菓子を作るのも、働くのも、本当に大変だった」

「そんな大変な思いして手に入れたお菓子を、私がもらっちゃっていいの?」

「いい。ミゼットだから」

「そう?ありがとう」

 なかなかどうして、嬉しいことを言ってくれる。ミゼットはとびきりの笑顔でシェールをなでた。

「思わぬ強敵が現れたものだ」

 シェールが見えなくなると、ぽつり、ゼインが呟く。

「は?」

「彼は君のことが好きなようだ」

「ちょっとゼイン、何を言い出すのよ」

 そう言いながら、ミゼットはまんざらでもない様子である。

「ねえ、もしそういうことになったら、エレイン、許してくれるかしら?」

「なっ。たとえエレインが許そうとも…」

「許そうとも?」

「なんでもない」

 興味津々なミゼットを、あくまでも憮然とした態度で振り払う。

「言わないとエレインに呪われるかもよ」

「知るか」

 小さくても男は男、突如現れた好敵手にゼインはひとり静かなる炎を燃やすのだった。

〜Fin〜 1周年アンケートお礼SS