時は夕暮れ。今日も今日とてシェールは剣術道場通いである。
「ただいま」
「おかえり。遅かったな」
「うん。ねえとうさん、あれ貸して」
「あれ?」
「うんあれ。お薬」
「何だ、怪我をしたのか」
今しがた帰宅したばかりの息子をタリウスは訝しげに見返した。
「ううん。ちょっとその、ケガって言うか、キズがあって」
「どれ、見せてみろ」
刹那、息子の目が泳いだ。
「い、いいよ。自分で出来るから」
「隠すことはないだろう」
「別に何でもないから」
言いながら、シェールの手が無意識にお尻へ向かうのを見逃しはしなかった。
「何でもないって………ちょ、とうさん!やめてってば!」
嫌がるシェールを押さえ込み、無理矢理ベッドの端へ屈ませる。もちろんシェールとて必死になって抵抗するが、間もなく父親の手によってお尻をむかれてしまう。
「ほう。なかなか良い色に染まっているな」
「やめてってば〜」
恐らく鞭か何かで打たれたのだろう。息子のお尻には赤い筋のような跡が数本浮かび上がっていた。
「何故こんなことになった」
「えーと、シモンズ先生にぶたれたから」
「どうして?」
「それはその…」
「言え」
「だから、先生の話を聞かないで、ふざけててケガしそうになったから」
「この馬鹿者!」
「いたっ!!」
怒声と共に目の前の尻に平手を落とす。シェールは大仰にのけぞり、涙目になって尻を擦った。
「ひどい!ただでさえ痛いのに」
「こそこそするからだ」
「そんなぁ」
「ほら、薬をつけて欲しいんだろう」
再び息子をうつ伏せにし、腫れた尻に薬を塗り込んでいく。シェールはと言えば、その間、口をへの字に結び、時折鼻をすすっていた。
「変なんだ」
「何が?」
「だって、先生に怒られたときは泣かなかったのに」
特に滲みるような薬でもない筈だが、シェールの目からは涙が数滴こぼれ落ちた。
「ここへ帰ってきて、安心したんだろう。別段、おかしいことでもない」
「でも」
「それに、友達の前では泣くに泣けなかったんだろう」
「うん」
息子のお尻の状態から、彼の受けた仕置きの厳しさは伺い知ることが出来る。泣かずに我慢出来たのは、これが家の外で起きたからに他ならない。そう考えると、何とも言い難い複雑な胸中だった。
「お前も大人になったな」
「え…?」
そんな想いを払拭するべく、今度はズボンの上からシェールのお尻を軽く叩いた。
「ああもう、痛いってば!」
「泣きたきゃ泣け」
「いいよもう!」
ともあれ、これでまた一歩息子は大人になるべく踏み出したのかもしれない。
2012.9.29 NO TITTLE 了
私なら…バンテリン貼るかな…。