暗闇を歩いていると、ふいに背後から肩を掴まれた。咄嗟に振り払おうとするが、その
まま強い力で引きずられてしまう。懸命に身を捩って抵抗した。
気付けば、自分に向かって無数の手が伸びてくる。振り払っても振り払っても、一向に
消える気配がない。身体が鉛のように重かった。
このまま訳もわからず滅びていくのだろうか。諦めかけたそのとき、目の前に小さな光
が現われる。あたたかで、やさしいその光に、必死で手を伸ばした。
目を開けると、いつもと同じ天井があった。そこで、タリウスは自分が夢をみていたのだ
とわかる。
「っ!」
突然、今度は現実に腕を引っ張られ、思わず息を呑んだ。
「みゃぅ…」
腕を引くと、言葉にならない幼い声が聞こえてきた。
「なんだ、またお前か」
いつの間にか小さな弟がベッドへ潜り込んで来ていた。掴まるものを失い、シェールは
コロンと転がった。
「しょうがないな」
弟を捕獲し、毛布に入れてやる。ここに来たということは、彼もまた悪夢をみたのだろう。
夢くらいひとりでみてくれ。そんなことを思った。
「ん?」
弟の柔らかい頬に触れると、人肌のぬくもりが心地よかった。
ひょっとしたら、あの光の正体は彼だったのかもしれない。守っているようで、自分のほう
こそ守られているというわけか。ぼんやりと考えていると、睡魔が襲ってきた。今度はきっ
と良い夢がみられる。
了