「ミラーの処遇について、君はどう考えている」

 一連の騒ぎがどうにか収まり、士官学校が日常を取り戻す過程で、タリウスは上官の部屋に呼ばれた。

「兵舎から脱走を図ったということは、自ら学ぶ権利を放棄したも同じ。退校処分になったとて致し方ない。そう考えます」

「慈悲深いジョージア教官にしては、真っ当な判断だね」

「では、ミラーは…」

「無期限謹慎」

「はい?」

 それ相応の覚悟を決めてきただけに、タリウスは思い切り拍子抜けした。

「公安に散々ぱら嫌味を言われただろう。今回のことで退校者を出さないと言うのが統括のお考えだ」

 あの後、老教官が連れてきた公安に、どう見ても刃傷沙汰にしか見えない現場をあくまで校内の揉め事だと言い張り、無理やり事を収めた。無論、相手は納得などしていないだろうが、そこは金の力で捩じ伏せたのだろう。

 中途半端に戦闘訓練を施した者を安易に野に放たれては困る。彼らは去り際にそう言い残していった。

「まさか。ミラーはともかく、コリンズを戻すと仰るんですか。そんなことが…」

「まあ聞け。コリンズについては退校ではなく、そもそも入校自体をなかったことにするそうだ」

「そんなことが可能なんですか」

「らしいよ。全くもって前代未聞だか」

 シリルが有力者の血筋と聞いたときから、最終的に全力で揉み消しに掛かるだろうとは思っていたが、流石にこれでは何でもあり過ぎだ。

「今頃は、心を壊した息子を手厚く監護していることだろう」

 そう言えば聞こえは良いが、実際のところ、不肖息子を世間の目から隠すため、どこかに幽閉しているのだろう。これでは更生も何もあったものではない。考えたら、心に陰鬱な影が宿った。

「ミラーについても、通常であれば退校になって然りだが、そのせいでコリンズの件を口外されては困る。故に、今回のことを一切漏らさないという条件付きで、再教育を行った後、然るべき時期に復帰させる。少なくとも怪我が治るまでは、君が面倒をみたまえ」

 恐らくそれは統括の意向などではなく、上官の温情だ。

「お心遣いに感謝します」

「何、今君に心中されては困る」

「先生だって…」

「私と君では残りの年数が違う」

 上官は、そう言って力なく笑った。


 了

 長いオマケへ