「ああもう、一体どうしたら良いのかしら」
ユリア=シンフォリスティは自室でひとり頭を抱えていた。彼女の目の前には、マーガレットの花が二輪、コップから顔を覗かせていた。
「これではいつかのシェールくんと同じだわ」
風に揺れる花たちを横目に、ユリアはひとり呟いた。
「タリウス!」
そこへ階段を上る規則正しい足音に、彼女は待ち人の帰宅を知った。心臓がドクドクと音を立てた。
この足音が隣室に入ってからでは遅い。彼女は意を決して立ち上がり、コップの花を一輪抜き取った。
「お帰りなさい」
そして、そのまま廊下に飛び出した。
「ああ、ただいま。何か…」
「どうぞ」
タリウスが何事かと問おうとすると、突然目の前に小さな花がすっと差し出された。
「差し上げます。昼間、二輪いただいたので」
「はあ、どうも」
彼は首を捻りながら、ひとまずそれを受け取った。
「どうしました?」
「お話ししたいことがあります」
「言いにくいことですか」
明らかに様子のおかしい隣人を前に、タリウスの腰が引けていた。一体全体今度は何を言われるのだろう。
「ええ、かなり」
「わかりました。どうぞ」
彼は深呼吸をした後で、そう切り出した。
「結婚してください。今すぐに」
「はい?」
タリウスの目が点になる。
「それは、イエスですか」
「いえ…」
「だ、だめなんですか?!」
「そういうことではなくて…」
「でしたら何ですか?はっきりしてください」
物凄い剣幕である。下手をすれば、掴み掛かられそうな勢いだった。
「わかりました。答えはイエスです」
「本当ですか?良かった!!」
ユリアは心底安堵し、背後の壁に寄りかかった。身体からへなへなと力が抜けていくようだった。
「大丈夫ですか」
「ええ、どうにか」
「何やら裏がありそうな話ですが」
「お聞きに…なりますよね」
タリウスが腕を取って支えてやると、彼女は上目遣いでこちらを見上げてきた。
「勿論、聞かせてもらう」
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