東方の地で過ごす最後の晩、タリウスは眠れぬ夜を過ごしていた。

 灯りを落とし、身体を寝具に沈めてから、果たしてどのくらいの時が経ったのだろう。定かではないが、いずれにせよ、目を閉じたところで一向にやってこない眠気に愛想を尽かし、彼は諦めて天井を見上げていた。

 ふいに小さな影が揺れた。影は、ベッドから這い出し、抜き足差し足で戸口へと向かう。音を立てないよう素足で、なおかつ手には靴を持っている。用を足しにいったわけではないことは明白である。

「こら、シェール。どこへ行く」

「へ?」

 シェールはピクリと身体を強張らせ、それからおずおずと背後を振り返った。

「えーと、その、ちょっと空を見に行こうかなって」

「何時だと思っている」

「だって眠れないし、それに今日の空、何か明るくて気になるんだもん」

 確かに、閉まりきらない窓の隙間からは、真夜中とは到底思えない明るい光がちらほらと差し込んでいる。そうして意識を外に向けると、心なしかあたりの様子も騒がしい。しかし、だからといって勝手なことをして良いことにはならない。

「流星群」

 タリウスがそのことを口にしようとすると、それまで沈黙を守っていたユリアが短く発声した。どうやら彼女もまた覚醒していたようである。

「今夜一晩で、それはもうたくさんの流れ星が見えるそうよ」

「流れ星?本当に?!」

「ええ。私がなんとなく聞き取ったところによると、だけれど。毎年この時期に見られるような話だったから、後でこっそり見に行こうかと思っていたところよ」

「そんなズルイ!」

「あら、シェールくんには言われたくないわ」

 平和なやりとりに、思わずため息が漏れた。結局のところ、誰ひとりとして眠れていなかったのだ。

「とうさん、お願い。一緒に来て」

「私からもお願いです、タリウス」

 そんなふうに両側から懇願されて、断れるわけがない。

「わかった。その代わり、二人とも離れるなよ」

「はい!」
「はい!」

 良い子の返事が二人分返され、続いて嬉しそうに笑い合う声が聞こえた。

〜Fin〜