翌朝、シェールはいつも通りの時間に目覚め、それから、はやる心をおさえ昨日の店に向かった。
初日は、店主に付いて配達の手順をひととおり学んだ。初めに店主の言った通り、新聞もまとまれば結構な重さがある上に、覚えるべきこともまた多くある。シェールが考えていた以上にきつい仕事だった。それ故、仕事を終え、宿へ帰り着く頃にはくたくたに疲労してした。
それからもうひとつ、彼にとって予想外だったのが、朝の配達に加え、夕方にも雑務があることだ。学校を終えると、その足で再び店に向かい、あれやこれやと翌日の準備をする。これには疲れ知らずのシェールも耐えきれず、夕飯が済んだところで記憶をなくした。しばらくはそんな日々が続いた。
「遅い!」
見よう見まねで朝刊の配達を終え、玄関を開けたところで、久々に父の怒鳴り声を聞いた。まさか朝からこれを聞くとは、シェールは思わず首をすくめた。
「こんなギリギリに帰ってきたら、学校に遅刻するだろう。一体どこまで行ったんだ」
「えーと、それは…」
あれ以来、結局新聞配達の仕事をしていることを打ち明けられないまま、時だけが過ぎていた。この際、話すなら今かと思ったが、それをすれば学校に間に合わなくなる。どうしたものかと考えあぐねていると、父がしびれを切らせた。
「もう良い。とっとと食事をしなさい」
そこはかとなく不機嫌な父を見るにつけ、やはり言わなくて良かったとシェールは密かに安堵した。
「シェールくん、まさかまだ話していないの?」
そんな胸中を見透かすかのように、ユリアが苦言を呈した。
「なかなか話す時間がなくて」
「それは言い訳だわ」
いつになく強い言葉にシェールははっとした。
「絶対に今日中に話して。そうでなければ、私からタリウスの耳に入れるわ。良いわね」
ユリアの声はあくまで柔和だったが、目は笑っていなかった。
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