一晩掛けて考えた結果、正直に打ち明ける方向でひとまず決着した。きつく叱られることへの恐怖もさることながら、このまま秘密を抱えていることの苦しさにも耐えられそうになかった。

ところが、学校が終わり、意を決して自室に帰ると父の姿がない。シェールは拍子抜けして、再び階下へと下りた。

「おばちゃん、今日ってとうさん帰ってきた?」

「いつもの時間にね。その後で、お昼過ぎだったか出掛けたよ」

「ああ、そうなんだ」

いつもならもう少し待って、自分も連れて行ってくれそうなものだが、今日は事情が違うのだろうか。もっとも、これから自分が話すことを聞いたら、とても出掛けるどころの騒ぎではなくなるだろうが。


結局、その日父が帰宅したのは夕飯時になってからだ。

「珍しいな。今日は出掛けなかったのか」

「え?あ、うん」

出掛けなかったと言うより、父の帰りを待っていたと言うのが本当のところだ。

「どうした?食事に行かないのか」

「うん、行く」

流石に食事をしながらする話でもないと思い、先伸ばしにしたが最後、すっかり時機を逸してしまった。夜も更け、ぼちぼちベッドに入ろうかという段になって、ようやくシェールは重い口を割った。

「とうさん、話したいことがあるんだけど」

「何だ?」

息子の様子にただならぬものを感じ、タリウスは新聞を繰る手を止めた。

「昨日、稽古に行ったとき、門限を全然守れなかった」

「それは今する話か」

父は冷たく問うた。

「違う、と思う」

「だったら何故今言うんだ」

「だって、なかなかとうさん帰ってこないんだもん」

本当はそれだけではない。ただうまく説明する自信がなかった。

「確かにそうかもしれないが、それにしたって今さっき帰ったわけではないだろう。だいたいずっと黙っていたのに、寝しなに急に話そうとしたのは何故だ」

「それは、悪いと思ったから…」

「違うだろう」

「違わないよ!」

「お前のことだ。悪いことをして、それを一人で抱えきれなくなって俺に打ち明ける気になったのだろう。自分が楽になるために話したと言うのなら、それは悪いと思ったからではない。勘違いするな」

ぴしゃりと父は言った。言葉どおり、自分は罪悪感に苛まれ、どうにもいたたまれなくなって正直に話すことを選んだ。

「ごめんなさい」

「とにかくこんな時間に言われても、俺に出来ることはない」

「そんな…」

やっとのおもいで罪を告白したと言うのに、それではあんまりだと思った。

「考えてもみろ。こんな時間にお前をお仕置きなんぞしたら、近所迷惑も甚だしいだろう」

「でも!」

「悪いが先に休む」

タリウスは話は終わったとばかりに、早々に寝床に引き上げてしまう。

「とうさん!」

「今夜のところはお前も寝なさい」

「うそでしょう?」

そして、おやすみと自分に背を向けた。シェールはひとりその場に取り残された。

「ねえ、とうさん」

「うるさい。付き合っていられるか」

そっと毛布に触れると、物凄く不機嫌な声が返された。怒っている。もはや何を言っても聞き入れてもらえないだろう。

もとより怒られるのは覚悟の上だ。厳しくお仕置きされるだろうとも予想した。だが、まさか宙ぶらりんなまま放置されるとは思わなかった。

一体どうしたら父は自分を許すだろうか。更なる後悔が束になって襲ってきた。