「それから、三回も宿題をさせられたんだ」

「三回?」

 数日後、ミルズ邸を訪れたシェールは、過日起きた不幸な出来事について、一部始終をゼインに聞かせていた。

「言われたとおり宿題やってもってったら、全部合ってないからやり直しって言われて。しかも、どこが間違ってるか、教えてくれないんだ」

「ほう。それで?」

「仕方ないからもう一回初めからやり直したんだけど、途中でもうお尻は痛いし、お腹は減ったしで、泣けてきて。気付いたら宿題ドロドロになっちゃって、それで」

「またしてもやり直しか。なるほど、いかにも父上らしい」

 たとえ相手が我が子であろうと、不正に対してはとことん容赦ないらしい。

「ねえ、ミルズ先生。前から思ってたんですけど」

「何だね」

「とうさんって、いつもは人間のふりをしているけど、本当の本当は鬼なんじゃないかな」

 少年は真顔で自分を見返してくる。

「全く君は、さらりとおもしろいことを言うね」

 ゼインはたまらなくなり、声をたてて笑った。


「随分楽しそうね」

 そこへティーセットを持ったミゼットが現れ、途端にシェールの落ち着きがなくなる。先ほどの会話を聞かれてはいまいかと、気が気ではないのだろう。

「それで、肝心の稽古のほうはどうだね。錬成会が近いのだろう」

「それがいまいち」

 さりげなく話題を変えると、シェールがため息を吐いた。

「あら、どうして?なかなか良い位置にいるんじゃなかったの」

「まあそうなんだけど、ひとりだけとんでもなく強いのがいて、練習では一度も勝てたことない」

「なに弱気になってるのよ。まだ時間はあるんでしょう」

「自分に出来ることはやってる。けど」

 そこでシェールは苛立って言葉を切った。

「けど?」

「無理なんだ。上のクラスの人たちはみんな自分のことで忙しくて、今は相手になってくれない。とうさんは、何度頼んでも絶対ダメだし」

「それは相手も同じなのでは?」

「違う」

 シェールは忌々しそうに吐き捨てた。

「おかしいと思ったんだ。稽古の日しか道場に来ないなんて。でも、そしたら毎日家でお兄さんたちが見てくれるんだって。ふたりの先生に就くのはルール違反だってとうさんは言うけど、本当は守らなくても良いんですか」

「ルールと言うよりは、モラルみたいなものだからね。少なくとも君の父上は間違っていない」

「そんなのずるい」

 狡いことをして勝ったところで嬉しくないと父は言った。しかし、必ずしも皆がそう思うとは限らず、そもそも今回の場合には相手はそれを狡いこととすら思っていないのだろう。

「そう言わないの。それよりシェール。私も見に行こうかしら、錬成会」

「本当に?いいの?」

 思いがけない台詞にシェールはまじまじとミゼットを見詰めた。

「ええ、その日は非番だから。よほどのことがない限りは行けると思う。ねえゼイン」

「ああ。週末なら私も行かれるよ」

「じゃあ僕、もっと頑張る」

 揃って微笑むミルズ夫妻を見ながら、シェールは、一度は折れかかった心をなんとか立て直すのだった。