少年は太陽を背に、夢中になって切り掛かって来る。その剣は子供とは思えぬほどに鋭く、重い。粗削りなのは言うまでもないが、そこには剣に対する真摯な姿勢が窺い知れた。

 全く血は争えないとはよく言ったものだ。

 ここ最近、シェールの成長には目覚ましいものがあった。差し当たって明確な目標があるわけではなく、ただがむしゃらに強くなりたいというおもいこそが、今の彼の原動力なのだろう。

 剣を握る彼の眼が真剣そのものである一方、こうして修行出来ることが楽しくて仕方がないということもまたありありと伝わってきた。その姿はさしづめ水を得た魚のようだ。

 めきめきと腕をあげるシェールを見るにつけ、誇らしく、嬉しいと思う反面、その実喜んでばかりもいられなかった。

「シェール、宿題くらいきちんとやれ」

「やってるよ。宿題を忘れたのはあの一回だけだもん」

「そうじゃない。何でも良いからやれば良いというわけではないだろう」

「も、もしかして見たの?」

 シェールは口をパクパクさせ慌てふためく。それから自分のものを勝手に見られたことが不服らしく、しきりにひどいと繰り返した。

「そんなふうに出しっ放しにしていたら、嫌でも目に入る。何のための宿題か、もう一度よく考えてみなさい」

 字の乱れと共に、途中から極端に正答率の下がった宿題を見て、すぐさまやっつけで終わらせたのだとわかった。学校が終わると同時にあそびに出掛け、辛うじて門限を守ったところで、今度は夕食までの間、裏庭で自主練習に精を出す。今やくたくたに疲れ、勉強どころではないのだろう。

「だって、数字見てると眠くなっちゃうんだもん」

「全くお前はそういうところまでエレインそっくりだな」

 刹那、彼の脳裏で亡き友人が舌を出した。彼女もまた、計算の類が不得手だった。

「わかった、きっとママからうつったんだ」

「それでもエレインは何とかしようとしていたぞ」

 それは得てして空回りに終わることが多かったが、わざわざ口にすることもないだろう。

「ともかく、勉強が疎かになるようなら、しばらく稽古は止めにするぞ」

「何で!ズルイよ、そんなの関係ないでしょ」

「狡いのはどっちだ。自分の好きなことだけしようだなんて虫が良過ぎる」

「だって」

「言い訳をしている暇があるなら、とっとと宿題をやり直せ。努力を出し惜しむような奴には何も教えない」

 これ以上やりあったところで何の得にもならない。それがわかったところで、シェールは宿題を持って部屋から移動した。