重苦しい空気のまま時だけが流れる。

「そんなに言うのなら、これまでどおりここにいて良い。お仕置きも受けなくて良い」

 固く険しい表情のままタリウスが立ち上がった。シェールには兄の意図するところがわからず、黙って探るような目を向けた。

「その代わり、お前が今回のことを悔いてきちんと反省するまで、俺はここへは帰らない」

「どうして…?」

「お前が勝手なことをしたせいで、どれほどまわりが振り回されたか。わかっていないどころかわかろうともしない。悪いが今のお前とは一緒にいたくない」

「嫌だ!そんなの、嫌だ」

 信じがたい台詞にシェールは全身から血の気が引くのを感じた。自分が悪いことをしたという自覚も罰を受ける覚悟もあった。ただ土壇場で怖くなって、あとは売り言葉に買い言葉のようなものである。まさかそんなことを言われるとは夢にも思わなかった。

「何も一生帰らないと言っているわけではない。自分が何をしたのか、何がいけなかったのか。頭を冷やしてゆっくり考えてみなさい」

「ちゃんと考える!考えるから嫌だ!待って!!」

「だめだ」

 追いすがるシェールを無情に振り切る。

「お兄ちゃん!!」

「お前は部屋にいなさい」

 その後はどんなに叫んでも答えは返らず、目の前で扉が閉った。


 足早に階段を下り、タリウスは戸外へと出る。その間もシェールの泣き声が耳に付いて離れない。人一倍見捨てられ不安の強いシェールのことだ。恐らく自分の与えた罰は耐えがたい苦痛をもたらすことだろう。残酷なことをしたと自分自身でも思った。

 しかし、それにしても精々が数時間の辛抱である。この際、しっかり反省してくれることを願いつつ、タリウスは通りを歩いた。

 しばらく行くと、ふと見慣れた制服が目に入った。予科生である。

「こんなところで何をしている」

「先生っ!」

 少年は教官の姿を見ると慌てて背筋を伸ばした。現状は彼らの外出が許されている時間ではない。

「先生を呼んでくるように言われました」

「先生とは誰のことだ」

「全員です。残らず呼んでくるよう命令を受けました」

「それは?」

 少年の手に何やら握られているのが見えた。教官に言われ、少年ははっとして持っていた紙を繰る。

「書状です!預かってきました」

 タリウスは封筒の束から自分宛のものを抜き取ると、すぐさま封を切った。手紙にざっと目を通し、元通り封筒に戻す。

「わかった。すぐに向かう」

 行けと顎をしゃくり、自らもまた駆け出した。