「今度の祝日だが、君の予定は?」

 ミルズ家の食卓、食事もあらかた済んだ頃の会話である。ゼインがほぼ暦どおりの勤務
であるのに対して、ミゼットのほうは不定休で、夜勤の回数も格段に多い。彼らの休みが合
うことは稀だった。

「そのことなんだけど…」

 それまで朗らかに談笑していたミゼットが、カップを置き目を上げる。

「実家の両親がこの近くまで来るらしいの。父が貿易関係の仕事をしていて、商談か何かで。
父は母がいないと何も出来ないひとだから、必然的にふたりで来ることになるのだけど」

「それはそれは」

 ゼインはミゼットの言葉を微笑みながら聞いた。

「それで、昼間父が仕事をしている間、母に会わないかって言われてて、だから…」

 彼女はそこで言葉を切って、遠慮がちにゼインを見る。

「行ってくれば良いじゃないか。たまには親孝行すると良い」

「もちろんそのつもりよ。だから、あの…」

「うん?」

「一緒に来てくれない?その、あなたも」

「私も?」

「パパに会えなんてそんなことは言わない。ママだけ。もちろん、無理にとは言わないけど」

 これこそが、日頃歯切れの良いミゼットが言い淀む理由だった。ようやく合点がいった。

「かまわないよ。いや、君の母上にお会い出来るとは、むしろ光栄だ」

「本当?良かった」

 無邪気に喜ぶその姿は少女時代と少しも違わない。つられて笑ってみるものの、その実
笑ってばかりもいられなかった。