朝からそんな調子だったから、今日のタリウスはすこぶる機嫌が悪い。そして、そのこと
を予科生たちもまた充分に理解していた。いつもに増して張りつめた空気をまとう教官に、
彼らは細心の注意を払い行動していた。
「またお前か!」
だが、皆が皆というわけではない。訓練も終盤に入り、疲労から集中力が切れかかって
きた頃だった。予科生の一人が命令を聞かず、見当はずれな動きをした。挙句、その責を
を人に転嫁しようとした。彼の身勝手な性格は今に始まったことではない。タリウスはその
場で激しく少年を叱責し、後に反省を促すため課題を与えた。
「何時に来いと言った?」
だが、待てど暮らせど一向に待ち人は現れず、諦めて帰宅しようという段になって、のっ
そりと少年が現れた。
「遅くなって申し訳ありません」
「呆れたな。受け取ると思うのか」
少年が差し出した課題を無情に突き返す。はらはらと紙が舞った。そこには乱雑に反省
の言葉らしきものが綴られている。前々からいい加減な奴だとは思っていた。だからこそ
更生させる機会を与えようとしたのだ。
「反省しています、先生。次から注意するので読んでください」
床へ散らばった紙を拾い集め、再びタリウスへ渡そうとする。その行為に怒るよりもむし
ろ虚しくなった。少年の中では、教官に作文を読ませることが目的となっているのだ。何の
ために反省文を課されたのかまるで理解していない。
「次とはいつだ。無限に次があると思うのか。もうお前に次はない。下がれ」
もはや何を言っても無駄だと思った。鉄は熱いうちに打て。そんな言葉が頭をかすめた。
「先生、見捨てないでください!」
「お断りだ。お前がどうなろうと俺の知ったことではない」
「申し訳ありません。罰を受けますから」
「今のお前は罰する価値もない。これ以上付き合えるか」
自分へすがる少年を追い払う。冷酷な言葉に少年は背筋が凍る思いだった。そして、よう
やく自分が取り返しのつかないことをしでかしたのではないかと思い当たる。
「申し訳ありませんでした。もう一度チャンスをください」
「約束一つ守れない奴の言うことが信じられるか」
「お願いします、先生」
幼さの残る瞳が必死に訴える。
「一晩考えて出直せ」
彼にとって、これは仕事である。最終的には見限ることが出来なくて、結果的に、少年に
請われるがまま再度の機会を与えることとなった。
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