「シェール、起きろ」

 すやすやと気持ちよさそうに眠る弟をタリウスが揺り起こす。元来、弟は寝起きが良いほう
ではない。根気良く起こそうとする兄へ、言葉にならない声を返すだけだった。

「ほら、早く起きて水を汲みに行け」

「やだー」

 会話が成立しているということは、もう目が覚めているのだ。

「お前の仕事だろう?」

「やー。お兄ちゃんが行って来て」

 一日の始まりである。穏便に済ませられるならそうしたかった。だが、いくら理性に欠いた
寝起きとはいえ、弟の身勝手をこのまま捨て置くことはできない。

「シェール。今すぐ起きなさい」

 兄の声音が一変する。流石にまずいと思ったのか、シェールがベッドから這い出してくる。

「嫌だろうとなんだろうと、決められたことはきちんとやる。わかったか」

「わかった」

「わかったら行動する」

 刺すような視線と威圧感に、一瞬にして目が覚めた。

「はいっ」

 弾かれたように返事を返し、慌てて着替えに取り掛かる。そんな弟を見ながら、タリウス
の心をある不安が満たしていく。 熱さも喉元過ぎれば何とやら。ひとまずシェールは従順
になったものの、この状態もそう長くは続かない気がした。