「ここに集まってもらったのは他でもない。君たちには極秘任務を与える」

 ゼインの執務室には予科生が数人、集められていた。彼らは教官の台詞に互いに顔を
見合わせた。

「あれが何かわかる者はいるか?」

 視線の先には黒い布の塊が数個、並べて置いてある。外套に見えないこともないが、
それにしてもはっきり何とは答えられない。少年たちは皆一様に沈黙した。

「テイラー=エヴァンズ。君はこの近辺の生まれだろう。近くへ行って、よく見てみろ」

 突然名を呼ばれて、彼はドキッとなる。今までこういう局面で自分にお鉢が回ってくる
ことはますなかった。体力には自信があったが、それ以外はパッとしない。成績は下の
ほう、素行も決して良いとは言えない。だから、何故自分がここにいるのか、理解でき
なかった。

「失礼します」

 それでも上官の命は絶対である。彼は塊の一つに近付くと、おもむろに持ちあげた。
すると、布の下には長靴が一足置いてあった。ごてごてと飾りがついたその長靴は、
あまり実用的ではなさそうだった。しかし、やはり見覚えがない。そう思い、元に戻そう
とすると、布の間からカランと仮面のようなものが転げ落ちた。

「申し訳ありませ…」

 慌てて拾い上げ、表を返した彼は、絶句した。

「これって、鬼祭りの…」

 全体を漆黒に塗られたその仮面には、釣り上がった大きな目と、口から飛び出した
二本の牙が付いいる、仮面は、昔と同じように不気味にテイラーを見ていた。

「その通り。鬼祭り、正式には雪割祭りと言ってな、もうじきこの町では春の訪れを喜ぶ
大きな祭りが開催される。これらは、その祭で使う。それは…エヴァンズ、君から説明し
たまえ」

 はい、と返事を返し、テイラーは仲間たちのほうへ向きなおる。

「これを着た鬼たちが、子供を追い回すんだ。街中を、その、鞭を持って」

「鞭?」

 教官の前であることを忘れ、思わずひとりが声をあげた。 

「そうだ、キール=ダルトン。君たちにはその鬼の役をやってもらう」

 すかさずギロリと睨まれ、キールは冷や汗を掻く。彼もまた、何故自分がここに呼ばれ
たのかわからないひとりだった。それにしても、鬼なら何も自分たちがならずとも、そう
思ってゼインを盗み見ると、またしても目が合った。 

「先生たちがやればいいのにとか、思っているわけではなかろうね」

 皆同じことを考えていたのだろう。いいえ、と申し合わせたかのように否定しまくるのが
何よりの証拠である。あまりのことに、ゼインは怒る気も失せた。

「我々は、陛下、国、そして市民のために存在している。だが、こう平和な世の中だと、
そのことすら忘れてしまわれがちだ。だから、こういった機会に士官学校として地域に
貢献するのだよ。つまりはだ。普段から厳しい訓練に明け暮れている君たちなら、二
三時間ぶっ通しで走り続けていても問題なかろうと、そういう話だ」

 ゼインの言葉には、訓練の一環でもあるから手を抜くな、という意味も含まれている
のだろう。彼らは神妙にうなずいた。

「言い伝えでは、鬼に叩かれるとこの1年間健康でいられると言われている。だから、
子供とはいえ、捕まえたら遠慮せずに打って良い。だが、くれぐれもやりすぎないよう
に。万が一怪我でもさせようものなら、この私が許さない」

 この他にも、打って良いのは背中や尻で、胸や腹、顔は打ってはいけないとか、子供が
転んだら助け起こしてはいけないが、自力で起きるまで打ってはいけないとか、鬼は軍の
要請で来ていることになっているから失態は許されないだとか、何があっても声を出して
はいけないとか、ゼインは事細かに注意を与えた。彼らも少し前までは子供と呼ばれてい
た年齢だ。そうしないと、何をやらかすかわからなかった。

「最後に、この任務は極秘であるから、誰にも口外してはならない。兵舎でも、君たちのこ
とを知っているのは、統括と私、それに一部の教官のみだ。以上、あとはエヴァンスにでも
聞け」

 そこで、テイラーは自分が地元の出身だから選ばれたのだと理解する。一方、そのテイ
ラーと仲が良いキールのほうは、未だ疑問が解消されなかった。