先頃から降り出した雨の中を、タリウスは足早に歩んでいた。
 ここから目的地まではもう目と鼻の先ほどの距離である。

 ふと視線を上げると、雨に打たれながら塊のようなものがやってくるのが見えた。

「子供?」

 目を凝らすと、塊に見えたのは小さな人影であることがわかる。
 彼はなんとはなしに、こちらへ近付いてくる人影を眺めていた。

「うわっ!」

 すると、ぬかに足を取られ、少年がバランスを崩す。
 タリウスは、咄嗟に駆け出すと小さな濡れ鼠を抱き留めた。

「大丈夫か?」

「うん、ありがとう」

 肩で息をしながら、少年は笑みを返す。
 途端に、タリウスは少年へ釘付けになった。彼の知人に驚くほど似ていたのだ。

「なあに?」

 自分を凝視したまま動かないタリウスを不思議そうに見上げる。

「この近くに住んでいるのか?」

「うん。銀の翼って宿屋。すぐそこが僕のうちだよ」

 銀の翼、それこそがタリウスの目指す先であった。

「そうか、やはりエレインの…」

「ママを知ってるの?」

 タリウスの呟きを聞き、少年は驚いて声を上げる。
 その間も少年の身体を雨が打った。

「ああ。よく知っている。これから会いに行くところだ。
 ともかく行こう。風邪をひいてしまう」

 少年の手を取ると、目で合図する。
 ふたりはしっかりと手をつなぎ、降りしきる雨の中を駆け出した。