「ねえお兄ちゃん。あ、間違えた」
「ん?何が間違えたって」
背後から呼び止められ、振り返ると、ああでもないこうでもないとシェールが独り言を繰り返していた。
「違うんだって」
「だから何が」
「だから、その…今度こそ、呼ぼうと思ったんだ。んーと、お父さんって」
その差はわずかなのに、何故だろう、新しい呼び名を口に出すのは殊のほかこそばゆい。そして、それはまた呼ばれる側にしても同じだった。
「ああ…。良いよ無理にそう呼ばなくて。俺はお兄ちゃんのままで一向に構わない」
「本当に?お兄ちゃんて呼んでても、僕のお父さんでいてくれる?」
「当然だろう。お兄ちゃんもお父さんも、これまでどおりお前の家族であることに変わりはない。シェール、お前だってシェールのままだろう」
「そりゃまあ、確かに。でも!もし、もし後からお父さんって呼びたくなったら、そしたら…」
「そのときは、そう呼べば良いだろう」
「うん。あーあ。良いなぁ、お兄ちゃんはそのまんまで」
「だから、お前もそのままで良いんだって」
〜Fin〜 2010.11.4 「帰郷」の後日談