「いいお家見付かった?」
「いえ。予算見合いもあって、なかなか難しいですね」
前回の反省を生かし、タリウスは暇を見ては、ちょくちょく家探しを始めた。城下で上官夫人に遭遇したのはそんな折りだ。彼女はシェールからなんとなくの事情を聞いたのだろう。
「ねえ、もういっそ教官やめたら?」
「そういうわけには」
「何で?どう考えたって、次は指揮官でしょう。そうなれば家はもらえるし、少なくともお金の悩みからは解放されると思うけど」
「ですが」
「夜勤?教育隊なら殆どないわよ。ファルコン追い出さないとだけど」
何はなくとも優先順位の一位は不動だ。
「それもそうですが、教え子だらけの中で働くのはどうかと」
「やりにくい…わね」
「私もそうですし、何より流石に彼らが気の毒です」
確かに、自分が部下なら遠慮願いたい事態である。ミゼットは閉口した。
「今より夜勤が増えるのは厳しい?」
「何とかなるかもしれませんが、そうでなかったときに取り返しがつきません」
「結婚すれば?」
「は?」
一瞬、時が止まった。
「言ってみただけよ」
ミゼットがこちらに好奇の目を向けた。大抵のことでは動じない自信があったが、自分としたことがしくじった。
「失礼したわね」
クスリと笑うミゼットを尻目に、タリウスは俄に頭痛がしてくるのを感じた。
〜Fin〜 2020.2