「とうさんはさ、ちょっとすぐに怒り過ぎだよ」
シェールがそんなことを言い出したのは、タリウスが息子に向け某かの小言を言った時だった。
「悪いがこれが俺の性分だ」
「うそだ!」
「何?」
「だって、前はもうちょっとやさしかったじゃん」
「そんなことを言うなら、お前だって前はもっと良い子だっただろう」
「それはっ!」
言い返そうとして、シェールは言葉に詰まる。
「それは、別にイイコだったわけじゃなくて、ただイイコでいようって思って頑張ってただけだよ」
「ほう。なら何故頑張るのをやめた?」
「なんでって、そんなことしなくても良いのかなって思ったから」
息子の言葉に、過ぎ去りし日々のことが思い出された。ここへ来たばかりの頃は、まるで遠慮のかたまりのようだった息子も、徐々に地が出て、今やこの通りである。
「控えめで、言いたいこともろくに言えない昔のお前もかわいかったが、どちらかと言うと、俺は今のお前のほうがわかりやすくて好きだ」
「とうさん」
シェールはきょとんとして父親を見た。
「その分、叱ることも増えたがな」
「やっぱりやさしいとうさんのがいい」
「お前な」
一連のやりとりは一体何だったのかとタリウスは呆れた。
「すぐ怒る〜」
そう言いながらも、息子の目は笑っている。他愛のないやりとりをしながら、心が軽くなるのがわかった。
〜Fin〜 2020.4.11