「ただいま〜」

「おかえり。楽しそうだな」

  帰宅した息子の足取りは軽く、顔もほころんでいた。

「ミルズ先生のとこのミルクが仔猫を四匹産んだんだけど、どれもすっごいかわいかった!」

「それは、なんというかその、大変そうだな」

  上官のうちには、これで都合六匹猫がいる計算になる。

「うん。なんかちょっと前からミルクいなくなってたみたいなんだけど、それが仔猫連れて急に帰ってきたんだって。とんだ不良娘だって言って先生怒ってたよ。ミゼットは笑ってたけど」

「目に浮かぶよ」

「それで、全部は飼えないからどうしようって言ってた」

「お前、まさか飼いたいとか言ったんじゃないだろうな」

「うーん、ちょっとはそう思ったけど、でも…」

 息子の言葉が尻つぼみになる。宿屋暮らしでは到底不可能だと、いい加減理解したのだと思った。しかし、続く言葉にタリウスは言葉を失った。

「でも、僕…飼うならうさぎがいいんだよね」

「は?」

「ねえとうさん、うさぎ飼おうよ」

「無茶を言うな」

 息子は自分の置かれている状況をからっきしわかっていない。

「おばちゃんが良いって言ったら飼っても良い?」

「良いわけないだろう」

 そもそも女将が許可するわけがない。

「だいたい自分の面倒もみられない奴が、どうしたら生き物を飼えるんだ」

「えぇ?そんなことないってば」

「現にお前は、俺に養われているだろうが」

「まあそうだけど。あ、そうだ!だったらとうさんが飼えば良いじゃん、うさぎ」

   シェールはさも名案だとばかりに、顔を輝かせた。

「馬鹿も休み休み言え。俺はお前ひとりで手一杯だ」

  全く息子ときたらどうしてこう思考が幼いのだろう。本音を言えば、シェールひとりでも持て余しているのだとタリウスは頭を抱えた。


〜Fin〜  2020.2.2