「今日の昼間、ママに会ったんだ」
シェールがポツリ、そんなことを言ったのは、ふたりともベッドに入り、灯りを消した後だった。
「すごく疲れてたから夢だったのかもしれないんだけど。でも、最近は夢にも出て来てくれないから、嬉しかった」
「そうか。元気だったか、エレインは」
シェールが会ったと言うのなら、本当に会ったのだろう。事も無げにそう思えることに、自分でも驚いた。
「うん。変わってなかった」
記憶の中に生きる彼女もまた、変わらず 微笑んでいる。
「早く帰ってとうさんに怒られろって言われた」
「エレインに感謝しないとな。でなければ、今頃お前を捜してあちこち駆け回っていたところだ」
一歩間違えれば、おちおち眠ることも出来なかった。全くエレイン様々だ。
「ごめんね、とうさん。いっつも迷惑ばっかり掛けて」
「言っただろう。迷惑だとは思わない。だけど、もうどこへも行くな」
「だって」
「確かに出ていけとは言った。言ったが、お前もいちいち真に受けて家出をするな」
「ちょっと待ってよ。そんなの、とうさんが出てけって言わなければいいだけじゃん」
親子喧嘩の末、これまで何度出ていけ出ていくの騒ぎに発展したか。後々面倒なことになるとわかっていても、頭に血が昇るとつい口が言ってしまうのだ。こればかりは自分でもどうしようもなかった。
「わかっている。極力言わないようにするから、お前も協力しろ」
「ねえとうさん、言ってることおかしいよ?」
「おやすみ」
「あ〜もう。ずるいよ」
些か卑怯だが、とりあえず今夜のところは寝逃げすることにする。シェールなら、きっとなんだかんだで許してくれる筈である。
〜Fin〜 2020.1.26 「鬼の目にも涙」の夜に