「ジョージア教官、疲れているのはわかるが、この報告書はいただけないな。日付が来年になっている上に、誤記も目立つ」

 あれからくだんの少女たちは、無事規定の日程を終え、北へと帰っていた。タリウスはと言えば、今度は残務整理に追われている。

「大変申し訳ございません」

「目を覚まさせてやってもかまわないよ」

  なんとなく覇気のない部下を見るにつけ、思わず意地悪が口をついて出た。

「そうですね」

「そうですねって、正気か?だいたい私に打たれたところで、もはや痛くはなかろう」

「そんなことはないと思いますが」

「そう言えば、予科生が話していたのを聞いたが、君の鞭が一番痛いと言っていたよ。ああ、こうも言っていた。君の鞭が一番たちが悪いとね」

「誰です、その無礼者は」

  一瞬にして、いつもの部下に戻る。

「そんな可哀想なことを言えるわけがないじゃないか。私は鬼ではない」

「鬼ですよね」

「は?」

  面食らうゼインをそのままに、タリウスは手元の書類を繰り始めた。

「一体どいつですか?こいつ?それともこいつですか」

 タリウスは上官の目前に名表を突き付け、一人ずつ指をさしてはその度に無遠慮な視線を投げ掛けた。彼は、訓練生がよからぬことをしでかし、なおかつ仲間を吐かせるときにこのような方法を取っていた。

「やめたまえ。私はこれでも君の上司だ」

「失礼しました」

「しかし、君の目力もなかなかのものだね。この私も心臓が止まりそうだったよ」

「ご冗談を。眉ひとつ動かしていらっしゃらなかったですよね」

 それはたまたま、犯人があの名表に載っていなかったからだ。なんてことは口が裂けても言えまい。


〜Fin〜 2019.12.19 「鬼の本領」のあとで