「シェール!」
「な、何?」
帰宅するなり険のある声で呼ばれ、シェールはぴくりと身を縮めた。時計騒ぎ以来、怒られるようなことはしていない筈である。
「何じゃない。良いから座れ」
何だかよくわからないが、タリウスの気迫に押され、ともかく言われたとおりベッドへ座わる。
「お前は学校に何をしに行っている?」
「勉強しに、行ってるつもりだけど」
「だったらこれは何だ。宿題はやらない、授業は聞かない、おまけに居眠りはする。一体どういう了見だ」
「えぇ!?」
目の前に突き付けられた便箋にシェールは釘付けになる。どうやら教師が書いたものらしいが、全くもって記憶にない。
「これ、本当に僕?」
「記憶喪失か、お前は。つい二三日前のことだろう」
「二三日前………ああっ!!それ本当に記憶喪失かも!」
「馬鹿なことを言うんじゃない!勉強のことをうるさく言うつもりはないが、学べることに感謝しろとは言っただろう!」
「うん。それは…覚えてる」
記憶にないのは、忘れたくても忘れ難い、悪夢のようなあの一日だけである。
「ふざけるな!」
しかし、寝不足と思いこみでぐだぐだだったあの日のことをタリウスは知らず、シェールはすっかり怠け者の烙印を押されてしまう。
「ねえ、もう眠い。疲れた〜」
「だめだ。あれもこれもそれも、すべて終わらせなさい」
「それじゃ明日はまた記憶喪失だって…」
結局、その日ジョージア親子は、またしても眠れぬ夜を過ごすことになるのだった。
〜Fin〜 2011.5.30 「紲」の後日談