早朝の街を大小ふたつの影が連れ立って歩く。

「ねえねえ、とうさん。どこに行くの?」

「さあ、どこだろうな」

「まさか変なところじゃないよね」

 小さな影がぴょこぴょこと忙しなく揺れた。

「変なところって?」

「えっ?だ、だから、例えば歯医者さんとか」

「また虫歯になったのか」

「なってないよ!」

「だったら歯医者に行く必要はないだろう」

「そっか、良かった…って、違う!そうじゃなくって。も〜う」

 またはぐらかされた。先程からいくら尋ねても、父は本日の行き先について明きらかにしようとしない。

「ならヒントちょうだい」

「ヒントは………キリン」

「キリン?!」

 道行く人に好奇の眼を向けられ、シェールはあわてて口を押さえた。

「ね、ねえもしかして動物園、だったりする?」

「ああ、そうだ。お前が言ったんだろう。殆ど寝言みたいだったから、覚えていないだろうが」

「うん。行きたいとは思ったけど」

「あのなぁシェール。頼むから、そういうことはちゃんと起きているときに言ってくれ」

「だって、とうさん忙しいと思ったから」

 確かにここしばらくは仕事が立て込んでいて、ゆっくり話す時間はなかったかもしれない。しかし…

「夜中にキリンに会いたいと言われるほうが、よほど対処に困る」

「へ?!」

「さぁ、早いところキリンに面通しといくぞ」

 小さな身体がカッと熱くなり、口がパクパク動いた。しかし、タリウスはそれには構わず、スタスタと歩みを進めた。


〜Fin〜  2012.4.10