二頭の馬が並んで街道を走る。騎乗しているふたりは言葉を交わすことなく、ぼんやりと空を見詰めていた。

「あーぁ」

 片側から溜め息とも擬声音ともつかない気の抜けた声が上がる。?

「先ほどから溜め息ばかり吐いているが、まさかもう後悔しているのかい?」

「まさか。いわゆるマリッジブルーというやつよ。気にしないで」

 ミゼットは隣りを一瞥し、手元に視線を落とす。数日振りに左手へ戻った指輪は今までとまるで重みが違った。

「ねえゼイン。戻ったら、結婚指輪を買ってくれる?」

「もちろん、好きなものを選ぶと良い」

 違う。そういう問題ではない。

「私、これまでずっと好き勝手生きてきて、家族にも国と結婚するようなものだから一切期待はしないでって言ってて。でも、流石に勝手に結婚しちゃったのはまずいかもしれない」

「だろうね」

「だろうねって!なんで人事なのよ」

 いきり立つ自分とはまるで正反対に夫は飄々としていた。

「そんなことは端からわかりきっていただろう。なに、黙っていればわかるまい」

「えぇーっ!」

「よく言っているじゃないか、嘘と秘密は違うのだろう。君が戻った後で、改めて式を挙げれば良い」

「そんなにうまくいくかしら。パパってば、あれで怒ると結構怖いのよね。あなたといい勝負」

「いい勝負って…」

 出来ることなら永遠に刃を交えたくない相手、それが舅である。だからこそ秘密を貫こうと決めたのだ。

「でも、あなたがそう言うなら、別にいっか。頼りにしてるわ」

 新妻の笑顔はまぶしく、そしてキリリと胃が痛む。


〜Fin〜  2011.3.19 「出航」のボツ原稿から再編集