「すまない、ジョージア。ペンを拾ってくれないか」

「はい」

 今日の主任教官はどこか様子がおかしい。ゼインは部下が拾い上げたペンを持つなり、顔を歪めた。

「笑いたくば笑えば良い」

「何の話ですか?」

「とぼけずとも良い。四十肩だ五十肩だと、皆好き放題噂しているのだろう」

 なるほど、肩が上がらないのだ。

「一体どうされたのですか」

「知り合いの子供に剣を教えていてね。素振りをさせていたら途中で音を上げた上に、先生は出来るのかなどと言い腐って。ついムキになって一緒にやったらこのざまだ」

 これを笑うなと言うのはもはや拷問である。もう少し腹筋を鍛えておくべきだった、つりそうな腹を抱えタリウスは思った。

「しかも、少年のほうは翌日すぐに身体に出たが、私は一日空いた。この場合、彼の前で醜態を晒さなかったことを喜ぶべきだろうか」

「さ、さあ…それはわかりませんが、ともかく末恐ろしい少年をお育てですね」

「全くだ。将来が楽しみだよ」

 負傷した上官がこれほどやわらかな顔を見せるとは、いったいどんな少年なんだろうか。何だかむしょうに好奇心が掻き立てられた。

〜Fin〜  2011.6.20 「邂逅」の後で