「どうもこの度は倅がお世話になることになりまして、ひとつよろしくお願いします」
ゼインの執務室には男ばかり三人、机を挟んで座っていた。部屋の主の隣には、部下であるタリウス、向かいには客人がそれぞれ着席している。
「こちらこそ。ところで、貴殿は以前、北部の騎士団におられたとか」
「ええ、そうです。それが何か?」
「愚妻がそれはもうお世話になったようで、一度私からもお礼をと思っておりましてね」
「奥方…ですか?」
男はさて、と首を傾げる。
「当時はモリスンを名乗っていました。姦しくて、さぞご迷惑をおかけしたことでしょう」
「モリスン…?モリスン?!あ、あの、ミゼット=モリスン!」
男の表情が凍りつく。額には玉の汗が浮かんだ。
「ええ、あのミゼット=モリスンです。なんでも並々ならぬご助力をいただいたとか」
「い、いえ。とんでもない」
男は出されたお茶を一気に咽へと流し込んだ。
「ご子息、将来が楽しみですね」
ゼインが不敵に笑い、そして、時が止まった。
「ジョージア教官、お茶のお代わりを差し上げて」
「ひえ、もうお暇ひますので」
「そうですか?ああ、こちらにいるジョージア教官には、ご子息たち予科生に付いてもらいます。私の腹心でしてね、絶大な信頼を置いています」
タリウスが起立して、一礼する。
「ど、ど、どうも。では、し、し、失礼します」
そのまま男は逃げるように戸口へ向かった。残されたゼインはさも愉快そうに客人を見送る。その横でタリウスが首を傾げた。
「一体何なんですか」
「昔、ミゼットがあの男に関係を迫られてね。断ったら左遷されたらしい。いつかその礼をしたいと思っていた。無論、彼の息子には何の関わりもないことだがね」
〜Fin〜