「ミルクとココア、君はどちらがお好みだろうか」
上官の問い掛けに、タリウスは言葉を失った。これがもし、隣に小さな弟でもいるならまだ話は分かるが、あいにく彼は今留守番中である。
「この際、両方という手もあるがそうするかね」
「い、いえ」
「遠慮することはない。さあ、とっとと選べ」
「コ・・・」
タリウスが口を開きかけたそのとき、パタパタとこちらに足音が近づいてくる。
「帰って来たか。今日は馬鹿に早いな」
戸に目をやり、忌々しげにゼインが呟く。
「ただいま。あら、いらっしゃい」
ミゼットに向かい黙礼を返したところで、タリウスの視線が止まった。彼女の足元に、白と黒の子猫が一匹ずつ、まとわりついてるのが見えた。
「かわいいでしょう。黒いのがココアで白いのがミルク」
「どういうことでしょうか」
不機嫌な上官と、彼に相反してご機嫌なミゼット、そして二匹の子猫達。彼らを見比べながら、タリウスは物凄く嫌な予感がしてきた。
「頼む、ジョージア。一匹で良い。もらってくれ」
「ちょっと、勝手に決めないでよ」
冗談じゃない、タリウスがそう言うより早く、ミゼットが猛抗議に出る。
「勝手なのは君のほうだろう。突然子猫を拾ってきて、しかも自分では殆ど面倒を見ないじゃないか」
「だって、子猫は好きだと言ってたじゃない。男に二言なしよ」
「確かに言ったが、飼っても良いとは一言も言っていない。ともかく、早いところどちらか連れて帰れ」
「何故そうなるんですか。宿屋暮らしで、飼えるわけがないじゃないですか」
再び話の矛先が自分に向き、彼は困惑しながらも言うべきことはきちんと伝える。
「そんなものは隠しておけばどうにでもなる。君のかわいい弟のためにも、ぜひそうするべきだ」
「意味が分かりません」
「同感よ」
論理の崩壊した上官に、教え子二人は白い目を向ける。
「ああ、君達には失望した。もう結構だ」
いたたまれない心地になったゼインは、足早に戸口へと向かった。
「流石にまずくはないでしょうか」
「平気よ。ここ先生の家なんだから、いずれ帰って来る他ないもの。ねえ」
政権交代に一役買ってしまったことに、タリウスの良心がちくりと痛む。しかし、そんなことにはお構いなく、ミゼットは愛おしそうに子猫を抱き上げた。
〜Fin〜 2010.10.7 つづく