その日、ゼインの執務室にはやたらと腰の低い男がいた。行商人である。
「これを1ダース、いただこう」
「良いんですかい、1ダースで。先生ならすぐに折っちまいますぜ?」
両者の視線の先にあるは鞭。それも1本や2本ではない。
「かまわないよ。私はもう滅多に使わない」
「それにしたって若い先生たちが…」
「彼らは私ほど強くは打たない」
なおも食い下がる男をゼインが遮る。
「そうなんですかい?そいつはやっぱり時代ですかね」
「恐らくな。今のご時世、昔と同じことをしたら、誰もいなくなってしまう」
「こちらにとっちゃ生きにくい世の中になりましたな」
やれやれと男は溜め息を吐く。
「それだけ平和な世の中になったのだろう。私もそろそろ鬼を返上するとしよう」
「冗談じゃない。こちとら商売上がったりだ」
「違いない」
いきり立つ男を横目にゼインは肩を竦めた。
〜Fin〜 初代拍手SS